2023年9月26日、JRAの美浦トレーニングセンターでは、坂路の改修工事が終わり、プレオープンを迎えました。新坂路は高低差33mとなり、栗東より1m高い坂路となりました。激変が見込まれる関東馬の成績ですが、馬券的にはどう対策すればよいのでしょうか?
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速報! 9月26日のプレオープンで新坂路を使った馬の成績(最新データ)は?
9月30日、10月1日の競馬で、美浦の新坂路を使用した馬は33頭でした(コース併用を含む)。結果は勝ち馬は0、馬券圏内もわずか2頭でした。
9月30日 中山8R(ダ1200)12リリージェーン(小手川厩舎) 4人気3着
10月1日 中山6R(ダ1200)4バンドールロゼ(清水英厩舎) 5人気2着
まだ、1週だけの坂路調教であり、効果が出るのは先となりそうです。社台ファームの本拠地山元トレセンでの坂路改修も、数字が出てきたのは翌年でした。
栗東に坂路導入時は、3年で美浦を逆転!
調教師が最も恐れるのが、調教で馬を壊すこと。激流のレース中ならまだ言い訳は立ちますが、管理の行き届く調教中の故障は、馬主の信頼を損ねます。
坂路は「平坦なコースと比較してスピードが遅くても運動負荷をかけることができ、脚にかかる負担を減らすことができる」「心肺機能や後肢の鍛錬になる」とJRA公式サイトは説明しており、厩舎人待望の改修工事となります。
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坂路の効果を知るには、栗東トレーニングセンターの坂路導入前と導入後の成績を見ればよいでしょう。事実、1985年の坂路導入後、わずか3年で、美浦所属馬(関東馬)の成績を逆転しています(1988年)。
もう少しさかのぼると、関東では、1978年までは府中や中山競馬場のそばに厩舎がありました。厩舎は現在は、JRA競馬学校(千葉県白井市)として再利用されています。厩舎がここにあった時代は、中山競馬場のコースを調教に利用しており、急坂を活用し、好成績を収めていたと言われます。
関東馬は、1978年の美浦トレセンの新設により、「坂路」の特権を失い、1985年の栗東トレセンでの坂路の完成に、とどめを刺されたと言えます。
2020年の坂路改修で躍進した社台ファーム陣営 美浦は再現なるか?
次に最近の事例を見てみましょう。近年、坂路により大きく成績を上げたのは、社台ファーム陣営です。
社台ファーム陣営は、生産牧場の社台ファームの坂路を2015、2019年に改修。2020年3月には本拠地である山元トレセンはの坂路を大改修しています。
長らく、ノーザンファーム陣営に苦杯を喫して来ましたが、2022年の桜花賞ではスターズオンアースで4年ぶりのG1勝利を収めると、菊花賞でアスクビクターモア、ボルドグフーシュがワンツーを決めました。
社台ファーム生産馬の成績を見てみましょう。
2021年に、単勝回収率を10ポイント近く伸ばしています。2022年のクラシックで「社台ファーム復活」が知れ渡った2023年には、単勝回収率は落ち込んでいますが、これは馬券の世界ではよくあることです。
しかし、社台ファーム生産馬と言えども、デビュー後は、坂路を増強した社台ファーム(千歳市)に戻ることは少ないです。次に、社台ファーム系の3つの外厩の成績を確認してみます。
- 山元トレセン(宮城県亘理郡山元町)
- グリーンウッド(滋賀県甲賀市)
- 社台鈴鹿トレーニングセンター(三重県鈴鹿市)
3つの外厩のなかでは、立地上関東馬が多く、栗東の坂路の影響を受けにくい、社台レースホース山元トレセン(社台ファーム同様、2020年に坂路を改修)を使った馬の成績を見てみましょう。なかなか表に出ない成績です。
坂路改修の翌年、単勝回収率は実に20%もアップ。2022年も好調でしたが、2023年に、前年のスターズオンアース(山元トレセンを利用)、菊花賞でアスクビクターモア(山元トレセンを利用)、ボルドグフーシュ(関西馬のためグリーンウッドを使用)の活躍が知れ渡ると、回収率はやや落ち着きました。
2020年の山元トレセンでの坂路改修のニュースを聞き、2021~2022年に山元トレセンを使った馬を絞って狙えば、プラス決算は可能だったと言えます。
下は、山元トレセンを使い、かつ仕上がりが良かった馬の成績です。
坂路改修の翌年には、単勝回収率112%を記録しています。
美浦トレーニングセンターの坂路改修でも、似た動きが予想されます。坂路は2023年10月に完成予定ですので、厩舎側が慣れ始める、2024年1月から投資を開始すればよいでしょう。ベタ買いではマイナスになりますので、好調教馬に絞るなど、何らかの絞りは必要です。
下は、山元トレセンを使い、かつ仕上がりが良かった馬の、2021~2022年の成績です。2021年は坂路大改修の翌年、2022年は翌々年です。
坂路改修で美浦(関東馬)はどうなる? 山元トレセンの成績から推理
山元トレセンの坂路改修後の回収率の動きにヒントを得ると、次のようなことが予想されます。
- ベタ買いではプラスにならない。好調教馬などなんらかの絞りは必要。
- 短距離、マイルは坂路効果が限定的(単純なスピード能力に比重があり、心肺能力や瞬発力はそこまで問われないためか)。
- 中距離での成績の上昇に注意する。
- 牝馬の方が成績が良い(一般に牡馬は、過剰投票になりやすい)。
以上のように、坂路改修後の関東馬は、2024~2025年を中心に、芝・ダートとも中距離の好調教馬、特に牝馬を狙うのが良いと言えるでしょう。
山元トレセントレセンの坂路改修では、ダート中距離(翌年)、芝中距離戦(翌々年)の順に効果が出たが、これは特殊事情がありそうで、再現度は微妙。基本は中距離に注意するとよいでしょう。
例えば、新潟開催では、関西馬が関東馬を蹴散らしていましたが、2025年の芝やダート(中距離)では、関東馬の逆転が続出する可能性があります。
すでに坂路調教は浸透しており、変化は限定される可能性も
ただ、山元トレセンの坂路改修時は、「美浦の坂路は充実しておらず、各外厩の坂路も現在ほどは充実していなかった」という条件がありました。
そのため、今回の美浦の坂路の大改修は、遅れを取り戻しただけで、馬券的に大きな変化はない可能性も無視できません。さらに、現在は厩舎での調教の比重は小さくなっており、外厩がメインとなっています。
その外厩では、社台(ノーザンファーム、社台ファーム)系やチャンピオンヒルズ、吉澤ステーブルなど、勝ち鞍トップテンクラスの有力な外厩に坂路が充実しているイメージもありますが、(高低差や長さを別にすれば)多くの外厩に坂路が設置されています。
例えば、年間の勝ち鞍50位前後で、10勝を超えるクラスのテンコートレーニングセンター(福島県田村郡小野町)も、充実した坂路を備えています。
このように、外厩主体の時代、美浦トレーニングセンターでの坂路の改修工事は、馬券収支にどの程度響くかは未知数で、(競馬雑誌やメディアは稼ぎ時のため、変化を煽ると思いますが)変化は小規模に収まる可能性もあります。また、上に挙げた予測は、あくまで山元トレセンの坂路改修をめぐる変化のデータをたたき台としており、どの程度再現するかは未知数ということもご承知おきください。
坂路改修後、データ派はかなりの注意が必要
一方、坂路改修後の影響が出始める、2024年以降、中期的には馬券戦略に大きな見直しが必要となるかも知れません。特にデータを軸に、馬券を購入している方への影響は大きいと考えます。
現在、データベースを活用する場合、関西馬と関東馬の区別は重要な1道具です。ジャンルによっては、(多くのファンに西高東低が知れ渡った今も)純粋に関西馬の期待値が高くなっていますし、逆に、関西馬が買われ過ぎて、関東馬が狙い目となっているジャンルもあります。
筆者は、データベース(AI)を利用した馬券投資を、2023年に本格導入しました。データを扱うなかで、他のファンの買い方の傾向をつかむことができてきましたが、注意すべきはPOGファン層(おおむね血統派とも重なる)の動向です。厩舎筋、生産者筋への感度が高く、馬券の買い方が上手な傾向です。
彼らの主戦場は、芝の中距離やクラシックディスタンス。古馬よりは、2~3歳戦に感度が高いと思われます。そのため、特にこのジャンルでは、回収率の急落に注意が必要です。
詳しい情報は、ぜひメルマガにもご注目ください。
第2特集 《ファクトチェック》夏の新潟競馬は、芝→ダート替わりで回収率143%は本当か?
第2特集として、馬券動向の先々を予測する、データの扱い方に少しふれておきます。
8月16日の発売の競馬雑誌『競馬の天才!』に夏の競馬は、芝→ダート替わりで高期待値が見込めるという内容がありました。『競馬の天才!』は、非常に参考になる雑誌で、毎月買うべきだと考えていますが、今回は非常に気になる内容だけに、事実かどうかチェックをしてみようと思います。
記事(46ページ)によれば、特に新潟競馬場では、ダート替わりの成績が良く、ベタ買いしても単勝回収率は143%とのこと。背景には、秋競馬を前に、陣営がいろいろ試しやすい時期だからということです。
これを検証してみます。なお、記事中では2019~2022年の3年間とありますが、これは4年間のはずです。今回は、2019~2022年の数値の方を優先してみました。
多少誤差はありましたが、単勝回収率は近い値が出ました。この統計の信頼度が高ければ、今年2023年の8月後半の新潟競馬でも期待ができます。AI予想では、この4年間のデータを「学習データ」と言います。これを鵜吞みにするのではなく、別の期間で検証を行います(検証データ)。今回は、2017~2018年で検証してみます。
検証は残念ながら不合格。さらにテストデータと呼ばれる別の期間を取る方法もありますが、今回は省略します。
次に学習データに偏りがないかどうか、年度別に見てゆきます。2019~2022年の4年間を、年度別に再集計すると、2020年の単回値が300%を超えていることが分かりました。ここに突発的な大穴が含まれ、数値が整っている可能性があります。
調べてみると、2022年8月22日の新潟8Rで、芝替わりの12マリノスピカが激走していることが分かりました。
12番人気1着。前走は芝コースです。
単勝は230倍でした。このことから、「夏の新潟競馬は、芝→ダート替わりで回収率143%」という内容は、過去数年間では事実だが、大穴が回収率を押し上げており、2023年に再現する可能性は少ないと思われます。
データは、このように、何重ものチェックを行い、今後再現するかどうかを検討することになっています。
もちろん、また単勝万馬券クラスが出るかもしれませんし、すでに8月の上旬で出ているのかもしれません。ただ、統計的には、このパターンのデータは再現度は低くなります。
『競馬の天才!』には、このほかに札幌や小倉のデータも掲載されており、こちらは未検証であり、再現性を持つかもしれません。仮に全体として、再現性が弱いデータだったとしても、「夏の間に陣営は何かを試す」という仮説を検討する非常に良い機会になりますので、このデータが無駄であるという訳ではありません。データにあたり、試行錯誤するうちに気づく事実はとても多くあり、取って出しのデータを公表してくれていることには、感謝すべきだと考えます。
以上が、おまけのコーナーでした。再度のご案内ですが、メルマガでは、このように綿密にデータにあたったAI予想を提供していますので、ぜひご確認ください。
毎日王冠 東京芝1800mの傾向と攻略法は?
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