近年、その重要性がよく言われるようになった「当日の馬場の傾向(トラックバイアス)」。外差し、力を要する、前残りなど、判断が難しいのが実際。馬場の状態を効率よく調べ、判定する方法をお伝えします。
筆者 競馬歴20年 メルマガ・マネードラゴン馬券塾を発行
芝の馬場状態(トラックバイアス) これだけ知っておけばよい
複雑に見える芝の馬場状態ですが、これだけ知っておけばOKです。
「ウイニングポジション」「ウイニングゲート」という考え方が有効です(真田理氏の考案)。日本語でいえば、有利な脚質、有利な枠順となります。
例えば、2021年3月の高松宮記念では、芝が荒れつつあるなか雨が降り馬場の内目が荒れてしまい、ウイニングポジションは「差し」、ウイニングゲートは「中枠」となっていました。
レースでは、差し馬が4着までを独占。枠順は外枠が目立ちますが、能力が高い馬なら、枠がピタリでなくても好走は可能です。
「ウイニングポジション」「ウイニングゲート」は、原則として次のようになります。
開催前半 | 開催中盤 | 開催後半 | |
ウイニングポジション | 逃げ・先行 | 先行・差し | 差し・追込 |
ウイニングゲート | 内枠 | 中枠 | 外枠 |
昔からの呼び方 | 絶好の馬場コンディション等 (決まった呼び名がない) | 呼び名がない | 外差し馬場 |
開催の前半・中盤・後半は、JRA公式サイトのレーシングカレンダーで分かります。2021年の高松宮記念は、中京開催の後半でした(1月にも開催があり、4月は開催なし)。
ただし、G1については、JRAが特別の配慮をしてよい馬場状態に整えようとしますので、例外的な状況が生まれることがあります(開催後半なのに内の先行馬が強いなど)。
2021年3月頃から、JRA公式サイトで、馬場の写真が出るようになり、非常に分かりやすくなっています。
開催後半のため、内の芝が荒れており、蹄が土の部分に食い込んでしまう(脚を取られる)力のいる馬場になっていることが、写真からも分かります。
極端に言えば、走りやすい芝コースなのに、内の方だけダートに近い状況で、内を通り距離を稼ぎたい逃げ馬には厳しい条件です(セオリー通り内を通ってスタミナを犠牲にするか、外を回り距離を犠牲にするかの2択)。
芝の馬場状態(トラックバイアス) の調べ方
競馬のプロは「外差し」「力が要る」などサラリと指摘しますが、その情報源は単に「当日・前日のレース結果」です。
競馬のプロは「外差し」「力が要る」などサラリと指摘し、馬場を見る目に長けているのかな?と思いますが、実は当日・前日の結果を見ているだけです(複数の専門家を観測した結果)。競馬のプロは、メインレースに言及することが多く、午前の競馬結果を踏まえていることが多いです。
- 土曜の前半レース … 実は馬場状態を判断できる材料がないが、未勝利戦が多く需要も限られるため、あまり問題にはならない。
- 土曜の後半レース … 前半レースをもとに馬場状態が判断されている
- 日曜のレース … 土曜のレースや、当日のレースをもとに判断されている
なお、ラジオニッケイ競馬中継では、9時半~10時ごろに、馬場状態に関する騎手コメントを発表することがあります。これは案外大雑把(「やや力が要るなと感じる」など)です。騎手も、自分が乗った馬の視点でしか語れないため、総合的に結果を見た方がよいでしょう。
「当日・前日のレース結果」は、競馬ラボが便利です(「競馬ラボ 結果」で検索)。
2021年の高松宮記念記念の直前までの結果です。まず枠順を整理します。複雑になるため、3着馬はカットします。枠番は色で示されていますので、競馬新聞のカラー面や、JRA公式サイトの出馬表を見ながら整理します。
枠順 | 脚質 | |
4R | 3-7(内枠‐外枠) | |
5R | 2-7(内枠‐外枠) | |
7R | 4-6(中枠‐中枠) | |
9R | 6-8(中枠‐外枠) |
脚質も整理します。
枠順 | 脚質 | |
4R | 3-7(内枠‐外枠) | 先行・先行 |
5R | 2-7(内枠‐外枠) | 逃げ・先行 |
7R | 4-6(中枠‐中枠) | 逃げ・先行 |
9R | 6-8(中枠‐外枠) | 差し・追込 |
雨が降り続けるなか、徐々に内が掘り返され、柔らかくなり、力を要するようになり、外目の枠・差しに傾いてゆくことが分かります。
ヒント 馬番や枠番まで考慮すると混乱しますので、内枠(1・2・3)、中枠(4・5・6枠)、外枠(7・8枠)で、2着まで見ると決めておくのがおすすめです。
メルマガでも、外差しで配信しています。
(参考)一言で「傾向」といっても、当日の馬場傾向なのか、該当レースの過去10年の傾向なのか、コースそのもの傾向なのか、3つの切り口があります。土台となる要素が、そのときどきの要素にどれだけ変形を受けるかということですが、この比重のかけかたが、予想の個人差ともなります。
最初は、枠順・脚質を見ればよいと思いますが、外枠の馬がずっと外を回るとは限らないように、枠順という指標には限界もあります。そこで、直線のどこ(内・中・外)を通ったかも焦点になってきます。
即座に情報を出しているサイトはないため、レースVTRを見る必要があります。上位5頭の通った経路を把握せよという人もいますが、作業が煩雑です(「ウイニングポジション」「ウイニングゲート」を推奨しているのは、位置取りや枠順をシンプルにとらえている点からです)。シンプルに1・2着馬の通った経路を確認します。
枠順 | 脚質 | 直線の経路 | |
4R | 3-7(内枠‐外枠) | 先行・先行 | 中‐内 |
5R | 2-7(内枠‐外枠) | 逃げ・先行 | 内‐内 |
7R | 4-6(中枠‐中枠) | 逃げ・先行 | 中‐内 |
9R | 6-8(中枠‐外枠) | 差し・追込 | 内‐外 |
直線での経路を見ても、雨が降り続けるなか、徐々に外を通った馬が台頭していることがわかります。
なお、直線の経路(内・中・外)を見れば枠順は要らないのでは?という意見もありそうですが、現在の多頭数競馬では、内枠の馬は内目、外枠の馬は外目を回ることが多いのは事実。逃げた馬や最後方の馬は内外を選べますが、ほかの馬は馬群のなかにいるため、経路の変更は容易ではありません。
また、馬場は直線だけが荒れるわけでなく、向こう正面や3コーナーも荒れることがあり、この影響は枠順と深いかかわりがあります(直線の経路とはあまり関係がない)。
ヒント 枠順、脚質、経路とも、1着馬と「3着以内で最も人気薄の馬」をチョイスしてもよいでしょう。1着を取るのは、2・3着馬に比べ数段難しく、人気薄での入着は、馬の力でなく馬場差に依存しての好走とも取れ、意味があるからです。ただ、この手順は予想の流れのごく一部ですので、素早くデータが取れる1・2着馬に絞ってもよいです。
参考までに、血統を気にする方は、血統も整理してみてください。やはり、競馬ラボが便利です(「競馬ラボ 結果」で検索)。
枠順 | 脚質 | 血統 | |
4R | 3-7(内枠‐外枠) | 先行・先行 | ニアークティック・ロイヤルチャージャー |
5R | 2-7(内枠‐外枠) | 逃げ・先行 | ニアークティック・ネイティブダンサー |
7R | 4-6(中枠‐中枠) | 逃げ・先行 | ネイティブダンサー・ロイヤルチャージャー |
9R | 6-8(中枠‐外枠) | 差し・追込 | ロイヤルチャージャー・ロイヤルチャージャー |
雨が降り進むにつれ、ロイヤルチャージャー系の占有率が上がっています。競馬ラボでは、馬ごとの系統も調査できます。例えば、高松宮記念記念で2着だったレシステンシアは、以下のようになります。
系統には、サンデーサイレンス系とありますが、これはまた別の意味の「系」ですので、色を見ます(ピンク色)。ピンク色は、上の凡例通り、ロイヤルチャージャー系となります。なお、ここでは初心者向けに系統を見ていますが、血統を重視している人は、種牡馬も確認しているようです。
Twitterでの確認も便利
当日や前日の結果から「中枠の差し」のように予想しても、本当に正しいか気になりますよね。その場合、Twitter検索が便利です。
Twitterでは、馬場状態に詳しいファンがつぶやくこともあり、例えば「高松宮記念 馬場」のように検索してみてください。失礼ながら、ほとんどが素人見解です。しかし、少し時間を要するものの、うまく探すと専門的な見解に出会うことがあります。
【#高松宮記念】
— Makku@重賞予想【磨き中】 (@MakkuKeiba) March 25, 2021
エイティーンガール
GIだからということではなく、今後重賞でも疑ってかかっていきたい。
好走の範囲がとても狭く、わかりやすいとも考えられる。
外差し馬場、右回り、人気薄、この条件でやっと手を出したい。
全て条件が揃ったスプリンターズSでお話にならなかったですが、、 pic.twitter.com/6zMzLneiH7
このツイートで可能性ありとされていたエイティーンガールは、12番人気7着(勝ち馬と0.4秒差)となり、かなり健闘しています。
芝の馬場状態(トラックバイアス) 応用編
芝の馬場状態ですが、走法やフットワークも参考にすることができます。
「ウイニングポジション」「ウイニングゲート」という考え方が基本ですが、ベテランの方は、走法やフットワークを見てもよいです。
開催前半 (絶好のコンディション) | 開催中盤 | 開催後半 (外差し馬場) | |
ウイニングポジション | 逃げ・先行 | 先行・差し | 差し・追込 |
ウイニングゲート | 内枠 | 中枠 | 外枠 |
走法 | 歩幅が小さい (ピッチ走法) | 歩幅が割と大きめ | 歩幅が大きい (大跳び、ストライド走法) |
フットワーク(脚さばき) | 軽い (固い馬場なら上りが相当速い) | 普通 | 重い (上りはそこまで速くないが、スタミナを生かしバテずに差す) |
走法やフットワークは、レースのVTRを見てわかる人はほとんどいません。そのため、競馬新聞での、記者や関係者のコメントが参考になります。
またTwitterで上手に検索すると、詳しい人がツイートしていることもあります。
ダノンスマッシュ快勝。勝因は、1400mの距離だと断言します。大きなフットワークは、スプリント戦の大レースを闘うに不向き。マイルでも侮れないと思う。 https://t.co/2pvUd2uV5M
— 傾奇者175 (@takahashi175) May 16, 2020
おはようございます😃
— 西川口のクマちゃん (@kindcubkumachan) March 28, 2021
昨日の高松宮記念は穴狙ってレシステンシアを切り外しましたが、ライトオンキューとラウダシオンは当初から要らないだろうと読んで正解でした。この2頭はピッチ走法で後ろ蹴りより前掻きに頼るので高松宮記念には合わないと思いました。
レシステンシアは1番人気で2着でしたが、ピッチ走法の分、大跳びのダノンスマッシュに負けたとも言えます。(ピッチ走法は、足が滑りにくく、ぬかるんだ馬場にも強いとされますが、この日は2頭とも外を通ったため、芝が良くぬかるんではいなかったと考えられます)
人気の一角だったラウダシオンも大跳びでしたが、出遅れてMデムーロ騎手が仕掛けたところ、かかって前に行き、当日の馬場(外差し)に合わなくなったのが敗因です。
10番のラウダシオンは、デムーロ騎手が後傾姿勢となり、抑えようとしますが、前に行ってしまいました。M.デムーロ騎手は、「行きっぷりが良かったし、状態も良かったです。でも、馬場に脚を取られて、かわいそうでした」とコメントしていますが……。
ダートの馬場状態(トラックバイアス) これだけ知っておけばよい
ダートではあまり聞かないトラックバイアスですが、実際に馬場は安定しており、あまり気にしなくて大丈夫です。
ただし、次のような知識は活用できます。
①[基本]新馬・未勝利では、逃げ・先行が有利
実はキャリアの浅い馬は、前に行って粘る走りしかできません。前が取れない、スタミナがあるなどの要因から、徐々に差しを覚えてゆく馬もいますが、そのころには1勝クラスに上がっているもの。原則として、新馬・未勝利では、逃げ・先行馬が有利です。
なおときどき、善戦をくりかえしているうちに、差しを覚えてしまう馬もいます。
②[基本]稍重・重・不良では、逃げ・先行が有利
ダートは砂浜と同じで脚を取られるため力を要しますが、水分を含むと脚を取られにくく、高速馬場となります。前に行ってもスタミナが減らないため、逃げ・先行馬が有利になります。
③[基本]府中のダートは、非常に特殊
JRAのコースは、中央・ローカルに分けることが多いですが、ダートは府中・その他に分けるのが妥当です。府中コース(東京競馬場)は、大型で、カーブより直線部分の占める割合が高く、適性がほかの競馬場とかなり異なります。府中では府中巧者を狙います。
④[基本]厳冬期のダートは、凍結防止剤で力が要る馬場に(スタミナ型)
凍結防止剤の影響は、専門家でも意見が分かれますが、近年は有力な専門家が「力が要る馬場に(スタミナ型)」という見解にそろいつつあります。馬体重が大きめでパワーがある人気馬が強くなり、下位人気の出番が減ります。フェブラリーステークスの時期からは、通常の馬場です(逆に言えば、フェブラリーステークスは、厳冬期の特殊馬場が終わるタイミングに設定されています)。
以下はマニア向けです。知らなくても構いません。
⑤[応用]行きの稍重(降雨中)では、内やや不利となることも
ダートの馬場は、内向きに少し傾斜があるため、レース当日に雨が降ると砂が流され、内が深くなること言われます。とくに稍重の段階で、影響が出ることが多いように感じます。
⑥[応用]戻りの稍重(晴天)では、内やや不利となることも
晴天の競馬で、稍重→良と回復してゆくことを、戻りの稍重と呼ぶことがあります。ダートの馬場は、内向きに少し傾斜があるため、内の水が抜けて乾きやすく、スタミナが減るため、内を走る馬がやや不利とも言われます。
なおダートの1枠は、有利なイメージがあるかも知れませんが、良馬場では、砂を被ることから成績が悪く、稍重では⑤⑥の理由から勝ちきれない傾向があります(2016~2020年、1枠の単勝回収率は55%で断トツの最下位)。重・不良では、水分が浸透し内外がフラットになるため、距離の分、成績が良くなります。
⑦[応用]地方競馬では内の砂厚をわざと厚めにしていることも
地方競馬では、競馬場ごとに砂質が異なります(大井・川崎が軽く、ほかは普通か重め)。また、地方競馬は小回りで坂がなく、砂を均等にならすと、イン先行の逃げ切りが多発しギャンブルにならないため、内の砂を厚めにしているという説もあります。ただし、これは騎手も気づいているはずで、逃げ馬は、少し内を空けるのではないかと思います。
ダート競馬は、メルマガ・マネードラゴン馬券塾でくわしく解説しています。
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